<特集>雪国観光圏の魅力をアウトドア達人に聞いてみた。
scf2014夏号に掲載中の雪国観光圏在住アウトドアの達人4人に雪国観光圏の自然の素晴らしさを聞いた対談。誌面ではスペースの関係で割愛せざるを得なかった対談を、scf+ではフルバージョンで掲載いたします。
Photo / Naoto Kawada
“ここの自然は毎日毎日景色がちがう表情を見せるんですよね。その景色に癒されてここで頑張っている感じです”
― 初めに自己紹介と現在のアウトドアの仕事に入るきっかけについて教えてください。
マイク=ハリス(以下、マイク):ニュージーランドから20年前に来ました。日本に興味を持ったのは高校生の時。高校生の時、日本人のおばあちゃん先生がすごく親切だったから。その頃空手もやっていて、忍者も流行っていた。日本は歴史、文化、深い。ヨーロッパ系とは違う。アジアの歴史に興味。日本語の文法も違うことに刺激を受けました。
念願かなって大学1年の時3ヶ月間夏休みライオンズクラブの交換留学生で静岡に来たのが最初。勉強とガソリンスタンドでアルバイトしてしました。それからは冬にスキーができることを知り、、富士パノラマスキー場や白馬でスキー場に来ました。日本のスキー場はニュージーランドと違いパウダースノウで、森林もある。低地でも大雪であることに驚きました。
“チャンス”という名のニュージーランド人が同じニュージーランド人の社長がみなかみ町でラフティングを始めるというので、元々ニュージーランドでラフティングをやっていたこともあり、1995年春から彼の会社で働き始めました。その後みなかみ町の別のラフティング会社である「アンクル・ベア」でオペレーションマネージャーとして働いたんです。オフシーズンにはニュージーランドやオーストラリア、ネパールなどにも出かけ、ネパールではじめて“キャニオニング(沢のぼり、沢を使った遊び)”を知りました。ここみなかみ町の利根川は春には雪解け水でものすごい水量があるのに、夏は水量が少なく、スリルが減る。みなかみには滝や渓谷も多く、ネパールで体験した“キャニオニング”をするにはバッチリだと思ったんですね。そして、2004年にみなかみ町でキャニオングをする会社「キャニオンズ」という会社を設立しました。
― キャニオニングは日本人には馴染みがないスポーツですよね?
マイク:最初はお客さんも知らないので集客に苦労しましたが、ラフティングのお客様への周知をしたら反応がよく、そのうちリピート客も増えていくようになりました。年々倍で増えていった感じですね。
群馬、関東、北海道や沖縄など日本各地をキャニオニングを試したが、ここは水量が豊富で、岩盤がいい。ニュージーランドのと似ている。花崗岩で1枚岩が多いため、水でヶ削れるためスライダーにもなりやすい。
高月ヒロコ(以下、高月):私は東京出身なんですが、家族5人でよく、高尾山登山や多摩川上流の河原を歩いたりしました。その影響か大学は探検部に所属してケービング(洞窟探検)、登山、ラフティングなどをしました。その後みなかみに魅せられた主人と共にここで「冒険小屋」というアウトドア会社を設立しました。現在主人から引き継いで、で現在私は2代目の代表をしています。冒険小屋では、夏はキャニオニング、登山、冬はバックカントリースキーツアーを開催していますが、私個人は登山が好きなんです。ここには谷川連峰、尾瀬、上州穂高、苗場山、八海山など素晴らしい山々がありますしね。その他にもガイドの依頼を受けて安全講習会や年間2~3本の海外登山にも関わっています。また、冒険小屋には素泊まり専用のゲストハウスもあり、朝早く出発するバックカントリースキーヤーに好評を得ています。
高橋正明(以下、高橋):私は仙台市生まれで、ずっと仙台市・新潟市でカメラマンとして働いていました。修学旅行の撮影で谷川岳などに同行するうちに、見たこともない動植物もいる山の自然の素晴らしさに魅せられました。次第に写真よりも山そのものに興味が移ってしまったんです。その後、湯沢町に移り住み、カメラマンとして生計をたてながら、今では湯沢アウトドアセンターでネーチャーウォッチングや登山のツアーガイドをしています。
今の子供たち、それは湯沢町の子供たちでさえ、山へ行かないんですよね。それ私たちの世代が仕事の忙ししさに紛れて自分の子供たちを山につれて行ってやらなかったから。だからその子供が親になっても私たちの孫を連れて行かなくなってしまったからではないでしょうか。そんな反省もあって、現在子供たちに自然の素晴らしさを教えるネーチャーガイドや比較的標高の低い里山を案内するエコツアーガイドをしています。
中澤美奈子(以下、中澤):私はキャンプなどしたことがないアウトドアとは全く縁のない人生を送っていました。英語が好きで本当は英語に関係する職業につきたかったんです。しかし、美容師、主婦、国際大学での生徒募集の手伝いなど。ボランティアで小学生に英語を教えていいました。
6年前に友人である五十沢キャンプ場の管理から夏場忙しいから手伝ってほしい、というのでコテージやトイレの掃除を手伝ったのがここにかかわるきっかけです。その友人が翌年「今年で管理人をやめるからあなたが今度して」と言われた。元来私はインドア派なので信じられませんでした。
管理人を引き受けましたら、ハードで、夏休みもなく、体力勝負。しかし、毎日毎日景色がちがう表情を見せるんですよね。その景色に癒されてここで頑張っている感じです。特に裏巻機渓谷は素晴らしい。新緑も紅葉も美しいです。 五十沢キャンプ場のウリは川遊び。NAC水辺の案内人の研修を受けた。現在は私と、私の娘、そしてパートの女性と女性だけで3人で管理しています。
“雪国観光圏の自然は世界に誇れる”
― マイクさんはニュージーランドご出身ということですが、外国の人から見たみなかみ町、雪国観光圏の自然環境の素晴らしさを教えてください。
マイク:もっともどの国の素晴らしいですね。ニュージーランドもネパールも。しかしネパールは伐採で木がないここは森林が元気。また、タイは一年中暑いけど、ここははっきりとした四季がある。確かに雪は多いけどその雪が素晴らしい水を生み出し、岩を滑らかに削りキャニオニングに最適のポイントを造り、エキサイティングなラフティングに最適な激流を作り出します。私は五十沢が日本で一番好きなキャニオニングのスポットです。
高橋:雪があるから他ではお目にかかれない山野草も自生する。四季があるからオールシーズン違った楽しみ方ができる。
高月:私も雪国観光圏の良さははっきりとした四季があることだと思います。そして雪国観光圏にはコシヒカリや山菜などの食材も豊富です。
“ファッションから入り、そのあと大自然に目覚める、という順番もアリだと思う”
― 最近は、「山ガール」という言葉が出るくらい若い女性にも登山や山歩きが盛んですが‥
高月:“山ガール”はアウトドアのブランドや小物のかわいさからファッションから先に入っていきますが、そのうち本当に山が好きになって行く。最近ではより本格的な“本気系山女子”も増えてきています。本気系山女子ザックを背負い、クライミングもする。一人も多い。一人が多いのは女性は土日は働くサービス業に従事する人が多いから。そういう人もツアーで参加し、そこで仲間を作る場合も多いです。現地に来て山を登るだけでなく、そこで気の合った“山トモ”をつくろう、という女性も多い。
中澤:女子キャンプもブームですしね。
高月:女性はキャンプを楽しむときも小物とかに気をつかい、自分の気に入った空間にしよういう人が多い。ファッションもタイツを履いているから、ひざ上スカートとかショートパンツとか普段都会では着ないようなファッションもする。
高橋:山ガールのファッションに刺激を受けてシニアの方のファッションも派手になったのは安全上よいことです。
マイク:もちろん最初から山とか川とかに興味があるという人もいるかもしれない。けど自然に興味がなくても、スリルやエキサイティングさ、そしてファッションから入り、そのあと自然の雄大さに目覚める、という順番もアリだと思う。
― 最近はどのようなツアーをされていますか?
高月:「初心者のためのー」「山小屋でのんびり」「初めてのテント泊」「雪の季節にこういう景色が見えます」といったテーマ性のあるツアーが受けています。
高橋:私のほうでも山野草の写真撮影ツアーも人気があります。それから最近無理をする方がいらっしゃいます。初心者の方は最初ガイド付きのツアーに参加することをお勧めいたします。ガイドは安全に、しかもより楽しい自然の楽しみ方を教えてくれるはずです。
ここには大型動物も多い。ニホンカモシカ、月の輪熊、ニホンジカ、いのししなど。インターチェンジから車で15分で大型動物を見ることができるのは雪国観光圏くらい。
中澤:五十沢キャンプ場には猿も多いんです。人がいる週末は出ないのですが、平日にはキャンプサイトに遊びに来ます。
マイク:湯檜曽で長野の地獄谷を真似て、野生猿が温泉に入るところを造ろうという動きもあるそうですよ。
“東京からこんなに近くで、日本を代表する自然が楽しめるところはありません”
中澤:昔はみなかみ町というとただの温泉街といった感じでしたが、今ではアウトドアのメッカとして若い人でいっぱいですよね。
高月:みなかみはアウトドアが盛んになってから、定住する若い人が増えてきたと思います。
中澤:南魚沼市は人口が減ってきているので、うらやましいです。
マイク:アウトドアも最初は地域の方からすんなり受け入れてもらったわけではありませんが、今では町の産業の一つとして定着しました。夏には川に山に、1日4,000人以上の方がみなかみにアウトドアを楽しみにやってきます。
高月:日本では吉野川と利根川が川遊びの2大メッカです。でも利根川のあるみなかみは東京から車で150キロ、新幹線でわずか1時間10分。東京からこんなに近くで、日本が誇る自然が楽しめるところはありません。
中澤:年々みなかみはおしゃれなレストランや商店も増えていますしね。
マイク:海外のリゾート地はウィスラーでも、インターラーケンでも、町の中心がきちんと整備されています。商店やレストランがあり、夜も楽しめるバーがあったり。
高月:それで、ちょっと裏通りにはいると素敵なお店があったり‥。あるいて街歩きが楽しめる。
マイク:夜も楽しめるから宿泊する。アクティビティもいくつもあるから連泊して楽しもうという気になる。みなかみも現在点在してるのですが、そうなっていってほしいです。
― 外国の旅行者にとっては温泉は魅力ですか?
マイク:宝川温泉とか法師温泉とか日本の伝統を残している温泉は特に人気です。日本の文化、食、田舎風景そして自然が残る雪国観光圏は外国人にとって魅力がある地域だと思います。
高橋:文化を伝えるのもガイドの役割ですよね。湯沢でも川端康成とか…
高月:私も雪国の自然とそこに暮らす人々が昔からどういう暮らしを営んできたかを伝えるようにしています。
高橋:ガイドの質は重要ですねガイドがいい加減ではまた来てもらえなくなります。
マイク:キャニオンズでも国際的なガイドを呼んで、講習会を開きレベルアップに努めています。
― 日本はアウトドアの規制が整備されてない国だと言われていますが‥
高月:みなかみ町では一昨年地元のアウトドア業者で作るアウトドア連合会と町でアウトドア条例を制定し、カヌーやラフティング、キャニオニングなど主な川のアクティビティについて業者が最低限守らなければならないルールを決めました。もっともそのうえで各会社も自社でそれ以上の安全基準で事業をしています。
マイク:みなかみ町は日本で一番安全基準がしっかりしていると思うね。
高月:業者間の横の連携がすごく、いい意味でお互い刺激し合って、より上のレベルへ全体で上がって行こうという感じです。
― 人には教えたくないオススメ秘密のスポット、楽しみ方ってありますか?
高橋:湯沢高原頂上から清津峡へ降りルートです。
中澤:五十沢キャンプ場では川遊びがメインで、釣り堀でにじますのつかみ取りもできます。キャンプ場の奥の天竺の里や裏巻機山渓谷やトレッキングにもぜひ足を延ばしてもらいたいですね。
― 最後に皆さんから一言ずつ読者の皆様にお願いします。
マイク:アウトドアスクールを雪国観光圏に作りたいね。ニュージーランドではラフティングのガイドも、キャニオニングのガイドも国家資格があり、社会的に認められている。高校にもカリキュラムとしてある。みなかみの高校にもそういうカリキュラムがあれば社会的にも認められるだろう。
高月:そうそう、ヨーロッパでは3代ガイドなんていう人もいる。ガイドが一生の職業としてなりえるしくみにしたいですね。そしてみなかみ生まれのガイドを育てたい。みなかみでいい事例を作って雪国観光圏の各地に広めたい。
アウトドアガイドが一生の仕事としてやっていけるようにしたい。みなかみは世界で一番いいところだし、世界で一番好きな場所。
高橋:私も次の世代を育てたいですね。また、行政とも連携してガイドとして生活できるようにしてもらいたい。私は年金がある。
中澤:今日ご出席の皆さんと連携していきたいと思います。本日参加の皆様から五十沢キャンプ場をフィールドに是非つかっていただきたいと存じます。(敬称略)