民話に出会う宿
座敷わらしの民話が伝わる宿
民話の宿のはじまり
ーそしたら廊下の方で、
〝とんとんとんとん〟
と子どもが飛び跳ねる音がして、かわいげな歌まで聞こえる…
(中略)
ちゅうで、言われたように掘ったら、そこからでっけえ金瓶が出て来て、中からざくざく大判小判が出てきたんだと。
金瓶が、あんまり長いあいだ埋もれていたんで、
「出してくれ」
ってケシ坊主の座敷わらしの姿になって出てきたんだとさー
(「猿ヶ京温泉語りガイド おとめ婆の祈り」著者:持谷靖子より)
猿ヶ京温泉にある「わらしの宿 生寿苑(しょうじゅえん)」に伝わる民話「八幡さま 座敷わらしの家」の一節だ。威容を誇る巨石を左右に見ながら山門をくぐると見事な日本庭園と山から引いたという清水が玄関先で旅人を迎える。一見普通の温泉旅館だが、座敷わらしに出会えるお宿として、今や多くの旅人が訪れる宿である。
宿泊者が座敷わらしにと置いていった玩具の数々
民話の中にも出てくる金瓶を祀った八幡さま
「今、旅館があるあたりは一面桑畑で、昔は養蚕農家でした。群馬県は冨岡製糸工場があるように繊維産業が盛んでした。しかし、戦後次第に繊維産業が衰退していく中で、父や母が温泉旅館をしようと考えたのが始まりです。旅館の母屋は築80年の養蚕農家の古民家を移築し、玄関の巨石は父が建築現場で余ったのを運んで作りました。」と語るのは二代目の生津秀樹さん。いつ頃から〝わらしの宿〟となったのだろう。
「20年前くらいに当地の民話を集めて民話の語り部をしていた猿ヶ京ホテルの女将の持谷靖子さんから〝生寿苑さんに座敷わらしの民話がありますよ〟と言われたのが最初です。その後、宿泊したお客様から座敷わらしを見た、などの話を聞くようになり、次第に当館が座敷わらしが出る宿、とのうわさが広まっていきました。」
どこで出会える!?
出る場所はいろいろあるというが、特に「夕顔」「椿の間」「浮舟の間」「露天風呂」に出るという。
「たぶん山門から本館へ続く道が〝霊道〟となっているからだと思います。『夕顔』に宿泊されたお客様からは天井から足音が聞こえたり、隣の部屋から話し声が聞こえたりという話を聞きます。この隣の部屋は空き部屋にしていますし、実は2階もないんですよ。貸切露天風呂に入っている時、何者かに触られた、というお客様もいらっしゃいました」
座敷わらしに会うために「夕顔」を指定して宿泊予約されるお客様も多くいるそうだ。
人気が高い「夕顔」のお部屋
お風呂でも“出会った”人がいるという
守り神でもある座敷わらし
東北地方では座敷童(座敷わらし)の民話が多く残っている。それは貧しいため幼くして命を落とした子供が、生きていたらやりたかったことをするために出たのだという。座敷わらしはいたずら好きだが、同時に家を守ってくれる存在としても考えられていて、 座敷わらしがいる家は繁栄し、いなくなると家が衰退するという言い伝えもある。そのため、座敷わらしを大切にし、食事を供える家も存在する。
宿泊者が感想を書くノートにはここでの体験が綴られている。座敷わらしに会った人はもちろん、残念ながら遭遇できなかった人もそれを楽しんでいる様がうかがえる。
宿泊者がここでの体験を綴ったノート
八幡さまの棚には絵馬が。宿泊者は無料で一枚もらえる
「当館はお客様にこの広大な敷地の中で、ゆっくりと過ごしていただきたいと考えております。座敷わらしも怖くはありませんから、ぜひ会いにいらしてください」
[みなかみ町]
猿ヶ京温泉 わらしの宿 生寿苑
群馬県利根郡みなかみ町
猿ヶ京温泉1048
0278-66-1175
https://shojuen.com/