不便を楽しむ宿
ランプの灯りで過ごす
不便が楽しい秘湯の宿
谷あいの宿の夕暮れは早い。
部屋の石油ランプに灯がともる
静寂と自然に囲まれた温泉宿
谷あいの日暮れは早い。あたりが薄暗くなる頃、宿のランプに灯がともされる。開業以来ずっと続けられきた光景だ。越後駒ケ岳の麓にあるここ駒の湯山荘は電気も通じていないことから「ランプの宿」として自然と静寂を求める旅人に人気の宿だ。
駒の湯温泉の歴史は、銀山と深く結びついている。銀山最盛期(1700年頃)には2,000戸におよぶ銀山町を形成していた銀山平。当時、必要物資は小出より馬の背に乗せ運搬していた。その銀山平と小出の中間点にあり、枝折峠の入口であったここ駒の湯は休憩地であった。ある日馬引きが、温泉らしきものを発見し、物資運搬の疲れを癒した。それが駒の湯の始まりと言われている。銀山閉山後も山から材木を川に流し、小出に集積した人々が、冷えた体を温める湯治として利用されていたという。
今も、その温泉を求めて多くの旅人がここを訪れる。ご主人の桜井隆光さんにお話を伺った。
「毎分2,000リットルという豊富な湯量を活かし、温泉は源泉かけ流し。33℃とぬる湯のため、長時間入浴を楽しむことができます。また、その泉質は化粧水にもなるほどです」
佐梨川の清流を聞きながら、自然から贈られた温泉に時間を忘れてゆっくり浸かる。心身ともにリフレッシュできる。その温泉は化粧水の代わりにも使えるというから驚く。
「2時間、3時間と長く入っているとエステを受けた状態になります。最初市販の温泉水を利用した化粧水を使ってるアトピーの方が、うちの温泉を化粧水代わりに使っていて大変好評でしたというお話を聞きました。そこで、アトピーの人にいいのなら、普通の人にはどうか?ということで温泉水を配ってみたら美容関係の人にも評判がすごくよくて。今ではみなさん化粧水代わりに使ってもらっています」
温泉は持ち帰りもできる
炭酸泉に負けないくらいの泡が出るということで、ペットボトルに入れると半分くらい泡となる。炭酸泉より細かい泡が全身にまとわりつく感じで、5分で字が書けるくらいになるという。それも鮮度が良く、湯量豊富なフレッシュなこの温泉の賜物だろう。
ランプの宿の過ごし方
「ご覧の通り山の中で、いまだに電気が通っていないから石油ランプを灯りに使っています。最近防火上のため一部昔ながらのランプに15ワットの電球を入れて使ったりはしていますが、お部屋にはエアコンはもちろん、テレビも冷蔵庫もありません。自家発電量もほんの少しなので非常に苦労しています。少量ですが温泉の水力を利用した発電も行っています。」
温泉の水圧を利用した自家発電機
携帯電話も通じないというから驚きだ。
「電話線もないので、通信は宿の衛星電話のみです。お客様からのお電話もなかなかつながらないこともあると思います。」
現代社会では当たり前となった便利さがない代わりに、ここでは自然と一体となる時間を提供している。
大小4つのお風呂からは豊富な温泉が湧き出し、大地の生を感じられる
駒の湯山荘で、どのような風に過ごしてもらいたいか聞いてみた。
「まずは、大自然の中、佐梨川の清流を聞きながら、ゆっくりと温泉に入っていただきたいと思います。ぬるま湯なので長湯ができますし、体の芯から温まります。夜はランプの灯りのもと、本を読んだり、仲間と語りあったりして、静かな山の時間を過ごしていただきたいと思います。」
「夫婦でぬるい温泉にゆっくりに浸かり、テレビもないんでランプの下で語り合う、みたいなお客様が多いです。こんなに長く話したのは新婚以来だね、なんてお客様からうれしい声を聞きます。」
佐梨川の清流を聞きながら露天風呂に浸る
地物を使った郷土料理が旅人の五臓六腑にしみわたる
自然の音に耳を澄ます。 鳥のさえずり、川のせせらぎ、風の音。五感を研ぎ澄ませ、自然と一体になれる。 テレビやスマホから解放され、大切な人とゆっくりと語り合うことができる…。駒の湯温泉は、単なる温泉地ではない。それは、現代社会に疲れた人々が、自分を取り戻すための場所なのかもしれない。
[魚沼市|冬期休業]
ランプの宿 駒の湯山荘
新潟県魚沼市大湯温泉719-1
090-2560-0305(衛星電話)
https://www.instagram.com/komanoyusansou/
※11月〜5月は休館 営業はお問合せください