ジオパーク×SCT
ジオパークとは、直訳すると「大地の公園」。地球の成り立ちを観察できる地形や地質、そこで育まれた生態系と私たち祖先の歴史文化を守りながら体感して楽しく学ぶエリアのこと。雪国観光圏にも苗場山麓ジオパークがあり、新潟県津南町と長野県栄村の約442㎢にかけて広がっている。最近その苗場山麓ジオパークを巡るトレイルコースができたということで歩いてみた。
苗場山麓ジオパークは奥信越の火山と川がつくりだした大地・雪に育まれた自然と歴史文化を学べるエリア。火山活動、河岸段丘の隆起と浸食、断層の活動、さらには山体崩落によって、その地形が形づくられた。特に日本有数の階段状の地形(河岸段丘)を一望することができ、大地の成り立ちを体感することができるフィールドだ。信濃川の支流の一つである中津川の左岸にも見事な河岸段丘が形成されていて、右岸の国道405号からはその威容を見ることができる。昔はV字谷の深い渓谷では雪崩が多発していたため、沖野原から続く左岸の道を通行に使用していたということだ。この古道を整備し、渓谷の景色を見ながら歩けるようにしたのが中津川散策道。現在では津南町の石坂のお堂から栄村の矢櫃村跡までの約27㎞を歩くことができる。今回その中津川散策道を利用してSCTが変更された。今回歩いたコースはその河岸段丘で有名な苗場溶岩流の柱状節理上部を歩くコースである。
中深見のバス停を降りた後、中津川を渡り急坂を登ると沖の原高原が広がる。アスパラや人参、夏にはひまわり畑となる場所である。またここには縄文土器も数多く発掘されている。そんな説明を聞きながら石坂お堂入口から山道に分け入る。ここは苗場溶岩流の柱状節理“石落とし”の上部にあたる。そのコースを苗場山麓ジオパークガイドの石澤憲一郎さんとともに歩いた。「柱状節理とは火山活動による溶岩流出が河岸段丘地形の上を覆い、その溶岩が冷えて固まり、柱の様に連なった地形のことを言います。30万年前苗場山の溶岩が流れ至り、その後長期間かけて中津川の浸食であらわになったのです」
苗場山麓にはたくさんの生き物がいて、特に植物は生きた植物博物館とも言われるほど。約1.300種が生育している。雪の中に埋もれることで生き残るユキツバキ、苗場山や小松原湿原に咲くヒメシャクナゲやワタスゲ、風穴の周辺のみに生育する希少なエゾスグリやトチノキの原生林などを見ることができる。「タムシバやクロモジは化粧水や薬酒の原料として当時村人の現金収入の一部となりました。また、アカモノやイワナシは子供の頃おやつとして弁当箱にたくさん詰めて食べたものです。」話を聞いて、なんでもとれる山の豊かさと自然とともに生きた暮らしを感じた。
鳥類も約120種いて、大木の森林や断崖にクマタカやハヤブサが生育している。SCTのルートも5月はハヤブサ営巣期にあたる5月までは、その保護のため迂回コースが設定されている。石落としにもハヤブサの巣がある。「ところどころ白くなっているのはハヤブサの糞が付着したためです」
廃村になった百合窪村の跡、段丘桜がきれいな龍辰峰(りゅうたつみね)、穴藤の峰などのポイントを歩きながら新緑のブナ林を進んで行く。
鉄管道(てっかんどう)の上の見晴らしが良い大地に到着した。鉄管道とは中津川第一発電所の水力発電用の水道管で、大正時代につくられた発電所。「この発電所を作るために軽便鉄道も敷設されました。大正12年に完成した水力発電所で、電気は東京へ送られました。」
苗場溶岩流と鳥甲(とりかぶと)溶岩流の柱状節理 坂巻の大嵒(さかまきのおおいわ)の上を歩く。普段川の反対側から眺めている河岸段丘の上を歩くというのは、不思議な感覚であるが、ブナ林のふかふかの山道が心地よい。妙法牧場の脇の道を通り、ここは信越トレイルとの結節点があり、SCTと信越トレイル、苗場山麓ジオパークの3つのトレイルコースを同時に歩くことができる稀有な場所となっている。
終点近くの、あずき坂までたどり着く。「あずき坂の由来は、ここには当時お坊さんがいなくて、死人がでると近隣の村までお坊さんを呼びに行ったという。呼びに行っている間小豆を煮ていた。ということから名付けられたと言い伝えが残っています」そこには縁結びの相対道祖神などもある。
美しいブナ林の急坂を降りると結東の部落へ出る。ここは結東温泉「かたくりの宿」の裏に出た。ここで宿泊もできるし、津南方面へ帰るには予約制のオンデマンドタクシーを利用する。大地の壮大な営みを感じながらあるくのもSCTの魅力の一つである。
ガイドしてくれたのは
苗場山麓ジオパークガイド
石澤 憲一郎さん
津南町在住。苗場山麓ジオパーク公認ガイドを9年務める。森林インストラクター。津南町自然に親しむ会会員、ふるさと案内人(津南町観光協会)、自然観察指導員(日本自然保護協会)。