【特集】縄文の旅へ。
いま縄文がアツイ。昨年開催された東京国立博物館の特別展「縄文―1万年の美の鼓動」は、35万人を超える人々が訪れたという。縄文時代から続く雪国文化を地域の宝だと考える雪国観光圏としてはうれしい限りだ。これを一過性の流行のように捉える向きもあるだろうが、私たちはそう考えていない。世界史上に類をみない一万年続いた文化。自然と共生した暮らし。互いを見通せるように円く並んだ集落。それが育む人のつながり。雪に埋もれた冬だからこその、たっぷりとした時間 ――。現代が置き忘れてしまった、なにか根源的なものがそこにある。豊かさとはなにか?縄文は私たちにそう問いかけるのだ。
土器
文様がなくても使用できたのに、わざわざ複雑な文様を作った縄文土器。アンギンも今では当時のような精密なものは作製できない。時間的に余裕のある暮らしの賜物なのだろうか。特に半年雪に閉ざされる雪国には膨大な時間があった。
1 土器の文様
火焔型土器をじっくりと見たことがあるだろうか。渦を巻く文様、波打つ造形。それらは名前の通り火焔をかたどったものだと思われていた。しかしながら現在別の説が浮上している。波紋を表していたのではないか、と。今となっては想像するほかない。あなたはこの文様を見て何をイメージするだろうか。
2 雪に埋もれた思考の時間
雪に埋もれ、自然も動物も時間が止まる真っ白な世界。冬の間、縄文人はそんな世界をどう過ごしていたのだろう?縄文人が持っていたゆったりとした時間が火焔型土器の文様を生み出したのではと唱える学者もいる。私たちもそんな思考の時間をつかの間でも取り戻したい。
集落
向き合って建っている集落形態。それは、家を出れば集落全戸が見渡せ、コミュニケーションが進む集落形態だ。また、中心部には広場があり、祭祀や話し合いでみんなが集ったことだろう。半年雪に閉ざされた世界。各々の家でも囲炉裏を囲んで長い冬に家族で話こんだことだろう。狩りや危険と隣合わせの環境の克服など、生き抜くためにはみんなで力を合わせなければならなかった。
1 集落形態
複数の家が円く並ぶ集落形態。家の出入り口同士が向かい合い、中心の広場を囲む。もしあなたが縄文時代に生きていたのなら、住まいを出てほどなくご近所と「face to face」のコミュニケーションをとれたことだろう。それが縄文時代の日常。あなたは今、隣人の顔をはっきりと思い出せるだろうか。
2 複式炉
竪穴住居の内部には「複式炉」というものがあった。これで火を焚き、家族で囲んでいたという。石を並べて装飾されたそれは、縄文土器の時代より500年ほど新しいものではあるが、縄文人にとっては暖をとったり、煮炊きをしたり、火を囲みながら話をしたりとコミュニティの中心だった。ひとつの炎を中心に人と人をつなぐ。その特性は囲炉裏にも通じるのではないだろうか。
自然
縄文は「森の文化」であり、それは「自然との共生の時代」。環境に適応した1年のサイクルがあり、それに準じた生活をしていたと考えられている。例えば、雪解けの春から冬の準備。その風習は今でも雪国観光圏では春のぜんまい干しなどとして残っている。また、その他の保存食や薪など冬の準備にも同じことが言える。SDGsとして持続可能な社会が今叫ばれているが、縄文時代は約1万年も持続した稀有な時代だ。その暮らし方、自然との向き合い方に現代人は学ぶべきかもしれない。
1 縄文カレンダー
縄文時代には冬を中心にした1年のサイクルがあったと考えられている。春と秋には採集を、夏には漁労を、冬には狩猟を。自然に適応し先を見据えて働く。今この雪国に食を保存する知恵が根付いているのはその名残。春の訪れとともにぜんまいを干し、次の冬に備えるのもその一例。
2 SDGs
SDGs(持続可能な開発目標)とは国連サミットで採択された2030年までに達成すべき開発目標。この目標のヒントが縄文文化にあるのではないかと私たち雪国観光圏は考える。自然を作り替えようとせず、限られた資源を有効に活かす知恵を持った縄文人。そんな彼らのライフスタイルに、この先私たちが地球で暮らし続けるカギが隠されているのではないか、と。
Experience
十日町市博物館
「雪と織物と信濃川」をテーマに展示。国宝に指定された「火焔型土器」をはじめ、縄文人ジオラマなどがあり雪国に暮らす縄文人の暮らしを垣間見ることができる。また織物や積雪期用具なども収蔵、展示。
新潟県十日町市西本町1−382−1 TEL.025−757−5531
※2019年12月2日~リニューアルに伴う休館となります
なじょもん
津南町各地で出土した大量の土器を展示しているが、必見は屋外の本格竪穴式住居。人工物の見えない森をバックにそこに佇むとまるで縄文時代にタイムスリップしたかのような感覚に。季節ごとの楽しい体験実習も盛りだくさん。
新潟県中魚沼郡津南町大字下船渡乙835 TEL.025−765−5511
見倉の大栃(みくらのおおとち)
全国森の巨人たち100選に選定された幹周り8.5メートル、樹高25メートル、推定樹齢500年もの巨木。大きな栃やブナの原生林の中を歩くと、縄文人が出てきそうな雰囲気を感じる。散策道入り口から山道を約40分。
新潟県中魚沼郡津南町見倉