生物・家庭科・科学、3教科で学ぶ雪国の食文化

作成: 日時: 2017年11月15日
知りたい

雪は美しい、と訪れる人は言います。しかし、ここに暮らす者にとって雪はやっかいなものでした。半年近く雪に覆われるから、越冬のための保存食作りや雪囲いなどの仕事に追われる暮らしでした。つまり、雪が一年の生活の中心だったのです。

雪国の行事こよみ

上の図は「雪国の行事こよみ」です。雪国の一年間の行事を円形に並べました。中心の円は暦の月、その次の円は作業ごよみ、外側の円は日付と年中行事を表しています。それらたくさんの年中行事は、厳しい自然の中でも喜びを見出そうとする人々の知恵でした。そして年中行事にはつきものの食にも、雪国の知恵がたくさん詰まっているのです。

さあ、食文化に隠された雪国の知恵を、教科別に学んでいきましょう。

 

 

【生物】その土地の食を助ける微生物たち

●美味しい菌類 キノコの生態

美味しい菌類 キノコの生態

福島県との県境にあるここ魚沼市旧入広瀬村の山々は、深い森林に覆われています。雪もたくさん降りますが春は山菜、秋はきのこの宝庫です。天然のキノコは倒れたブナの木から自生します。倒れてすぐに自生するのはキクラゲです。3年経つとナメコ、5年から6年経つと、ブナハリダケやエゾハリダケ。そして10年経ったブナの倒木からは、ナラハリダケが生えてきます。天然のキノコに出会うのは運も大きいですが、私たちは倒れたブナの木の場所を覚えておいて「そろそろあのキノコが生えてくる頃かな…」なんてあたりをつけて採取するんです。毒キノコを見分けるには、5年はかかります。食べることができるキノコと毒キノコはそっくりなものが多いですから。(喜楽荘 宿主 浅井藤夫さん)

旅館 喜楽荘
新潟県魚沼市大白川872-1
TEL 025-796-2731

 

●納豆菌と善玉菌 納豆の発酵

納豆菌と善玉菌 納豆の発酵

貸民家みらいでは、納豆の手作り体験ができます。使う材料は自家栽培の大豆と藁を使用しています。下処理をした大豆を手作りの藁苞(わらづと)の中に入れて42~43℃の温度で20時間保温します。チェックイン後に納豆を作れば、翌日の朝食にお召し上がりいただく事が出来ます。藁苞を作る際に雑菌を取り除くために煮沸消毒をしますが、納豆菌は100℃でも死なないと言われています。また、発酵食品には腸内環境を整える善玉菌を増やす働きがあり、納豆はその中でも最たるものとして位置づけられています。腸の健康を維持し、体の免疫力を向上させる発酵食品を摂って健康な体を作りましょう。(貸民家みらいさん)

 

●微生物との共生 農作物たち

微生物との共生 農作物たち

古民家を貸別荘にした貸民家みらいは新潟県の山里にあります。中には農作業体験を目的に訪れる宿泊者の方もいらっしゃいます。日本有数の棚田を有するこの地域は、従来の方法で稲作が営まれています。春の田植え、夏の草取り、秋の稲刈り・はざ掛けといった四季折々の農作業を体験することができます。田んぼに限らず、畑の作業も体験できます。季節によって様々な野菜の苗植え、収穫を楽しむことができます。田んぼも畑も使う肥料は堆肥のみで、微生物たちとの共生を大切にしています。化学肥料を使わない事により、農作物本来の生命力がより強くなります。その反面、草取り等の手間は掛かってしまいますが、苦労した分だけ美味しく体に良い農作物を育てることができます。(貸民家みらいさん)

貸民家みらい
新潟県十日町市松代5316-3
(有限会社 ワカイ測量内)
TEL 025-597-2561
FAX 025-597-2548

 

 

【家庭科】知恵の詰まった昔からの郷土食

●あんぼ

あんぼ

モチモチ食感が美味しい、津南の代表的な郷土食。昔はくず米を利用し、食べ物を無駄にしない知恵があった。

材料(10コ分)
[生地]うるち粉…350g/もち米粉…150g(うるち粉:もち米粉=7:3)
[具材/大根菜味噌炒め]大根菜…700g/味噌…100g/みりん…少々/砂糖…20g

1.具材を炒める
大根菜を茹でて細かく切る。鍋に油を入れ、大根菜を炒め、調味料を加えて味を整える。包みやすいように丸めておく。

2.生地を作る
粉を混ぜて、少し熱めのお湯でこねる。耳たぶ程の柔らかさになったら10コに分ける。真ん中を厚めに、周囲を薄くするように丸くのばして具材を包み込む。

3.茹でる
2を茹で、浮き上がったら完成。また焼くと香ばしくなり美味しい。

 

●あまんだれのおつゆ

あまんだれのおつゆ

野生のきのこの出汁が味わい深い。

材料(4人分)
[具材]あまんだれ(ナラタケ)…200g/豆腐…300g/長ネギ…1本/しょうゆ…80cc/だし汁…4カップ

1.きのこを洗う
山のきのこは、採ってから水につけて虫やゴミを取る。よく洗ったら水気を切っておく。

2.きのこを煮る
だし汁を煮立てる。あまんだれを入れ、沸騰させたら醤油を加える。

3.具材を入れる
再び沸騰したら、豆腐をそいで入れる。ななめ切りにしたネギも入れてひと煮立ちさせる。

出典『伝えて残したい旬の味 昔なつかし 津南のごっつぉ』
編集・発行/津南の料理集作成委員会

 

 

【化学】発酵食品の作り方と、雪国の保存食の知恵

●野沢菜漬けで知る、発酵食品の作り方

1.収穫する

野沢菜漬け

収穫時期は11月頃。初雪が早いと雪の中から掘り起こすこともある。収穫したら山の清水や水道水で、土などの汚れを手作業で洗い流す。水が冷たいため大変苦労するとのこと。

 

2.桶に漬ける

野沢菜漬け

桶に野沢菜を敷き詰める。野沢菜を一段敷くごとに塩や鷹の爪などを振りまいて、桶いっぱいになるまで繰り返す。そこに野沢菜に対して倍の重さの重石を乗せ、水を上げる(野沢菜の水分を抜く)。約一日で水を上げるのがポイントで、この日数が美味しさを左右する。収穫時の野沢菜の出来によっては水が上がりにくい。その場合は、はじめに迎え水(塩水)を入れたりなどして調整。水が上がったら重石を軽くして置いておく。

 

3.寝かせる

野沢菜漬け

野沢菜を敷き詰めた桶は、屋内の涼しい場所で保管し、春までそのまま。自然に発酵するため、春に近づくにつれて少しずつ酸味が増していく。気候が暖かい年だと発酵が早く進んでしまい、酸味が強くなり過ぎてしまうことも。発酵を抑えるため、気候によって焼酎や酢を入れる家庭もある。

 

4.食べる

野沢菜漬け

桶に敷き詰めてから20日ほどで完成。翌年の5月頃まで食べ続けることができる。そのままでももちろん美味しいが、春まで飽きないための様々な食べ方がある。あんぼやかてぜ、天ぷらなどに使っても美味しい。

 

ごっつぉ処 ぶらり農園
長野県下水内郡栄村堺4959-43
TEL&FAX:026-987-2359

漬物体験はこちらでどうぞ。地域の家庭料理を味わえる「ごっつぉ処」。 秋は芋掘り、大豆の脱穀、野沢菜漬けなどの農業体験も。※要予約

 

●研究員が解説!雪国の保存方法

新潟県農業総合研究所食品研究センターの西脇俊和さんと堀井悠一郎さんに、雪国の保蔵方法について聞きました。

・塩漬け
一番一般的な保存方法。海がある新潟は塩に恵まれており塩による漬物が他地域より広まった。その代り全国的に多い乳酸菌発酵の漬物は、新潟ではほとんど見ることがない。

・味噌漬け
味噌の塩分の力で殺菌し、長期保存を可能にするとともに、味噌の旨味で漬けこんだ野菜がうまくなる。

・山海漬け
酒粕の力で山の物(野菜など)や海の物(数の子など)を漬けたもの。酒蔵の多い新潟ならではの漬物方法。

・雪室
野菜は越冬時、床の下や土間にワラなどでくるんで保存したが、大根立て(大根つぐら)などを作り、雪の中に保存することもした。ワラで包まれた内部は、気温と湿度が適度に保たれ内部の野菜は凍らず味を損なうことなく冬期間の保存が可能だった。
現在では倉庫のような大がかりな雪室施設も各地でみられるようになった。これは、雪室に保存されたジャガイモが糖度を増すといったようにその効果が実証されたためである。

・乳酸菌ウオヌマ株
これは我々、新潟県農業総合研究所食品研究センターが開発した食品保存のための乳酸菌。野沢菜は最近では、浅漬けとよばれる塩漬けが一般的であるが、雪国では乳酸菌発酵が進みべっこう色になった野沢菜を「古漬け」といって好んで食べたりした。その乳酸菌を利用したのが"乳酸菌ウオヌマ株(製法特許済み)"である。野菜の加工品などに加えることで、雑菌増殖の抑制による低塩での保存や、加熱処理をしない発酵によるほど良い酸味と風味で良食味となる。