みなかみ町の猟師、阿部達也さんに聞いた山のこと、ふるさとのこと。
地元の食材にこだわる料理人として山人料理をふるまう一方、猟師として山に入る暮らしを続ける阿部達也さん。登山やキャンプとは違ったかたちで、この雪国の自然に向き合う達也さんに、山への想いや、ふるさとへの想いを伺いました。
― 猟で山に入ったとき、どんなことを考えているんですか。
やっぱり動物の気持ちになるというのが一番です。外敵が来るというのを動物に悟られないような歩き方。止まって、耳で確認する部分、目で確認する部分、もちろん臭いもする時もあるし、そこでできる限り、五感を研ぎすます。なにかしら音が聞こえたりとか。自分が止まらないと動いているものがわからないので、とにかくこまかく止まって、相手に気づかれないように先に見つけるっていうことですね。
― 足跡を見て、これは昨日のだとか、今日のだとか、どうしてわかるんですか。
新しい足跡だと踏まれた部分も柔らかいし、あと例えば雪がのってるとかのってないとか。歩き方でも走ってるのか、飛んでるのか、みんな足跡から動物がどう動いているのかというのを想定して近くにいるのか、いないのかを判断する。やっぱりわからないときは触ってみたりとか、凍っていれば古い足跡とか、柔らかければ朝のとか、いろいろあるので、足跡から新しいものって判断できれば獲物が近くにいるっていう可能性が高いと。そういう判断ですね。
― 山に入るのにいい日っていうのは、どういう時なんですか。
例えば吹雪であっても、吹雪だからいるだろうというポイントもあるので、雪が降ったから行こうというのもあるし、前日冷えて朝から気温が早くあがった日はたぶん日向にでるだろうとか。想定というか。ま、もちろん修正は、自分なりには勉強はしてますけれど。
雪も降ることも味方だし、晴れるのも味方だし、そういう風にうまくプラス面に考えて山には入るようにはしてます。
― 山のことをいつも考えている。
そうですね。動物だけのことでもなく、山に自分で入る以上、雪のつき方、危ない箇所も何カ所もありますし、雪崩にあってしまえば怪我をしたり最悪死んだりということもあるので。動物のことだけでもなく、山の変化も見るようにはしてます。
― 達也さんにとって山っていうのはどんな場所ですか。
山……。そうですね、ひとことでいうととても難しいですけど、いちばんは遊ばせてくれるいい場所っていうのはありますね。山菜穫れたり、きのこ穫れたり。獲物も穫らせてくれるし。
ただ、やっぱりいちばん危ないとこ、っていう考えもあるので。ほんとに実際この一歩を踏み出せば死ねるっていうことはいままで何回も経験してきているから。山はやっぱり怖い、常に怖い、は感じてます。なんであきらめる勇気というか、これ以上いったら山を怒らせるなとか。
もちろん山の神様もいますし。遊ばせてくれるとてもいいフィールドではありますけども、命も簡単に落とせるとても危険な場所。なんでやっぱり山には敬意を持つというか、うん、お山さまというか、そういう考えで。うん、山で遊ばせてもらってる、そういう考えで山には入ってます。
― 獲物をさばいているときは何を考えているんですか。
もちろん命がなくなったというか、心臓が止まった時点で、肉として考えるので、おいしく食べてやるためには手早く内蔵を出したりとか、早く肉を出したりとか。そういうことももちろん考えますし。例えば、あとは一発で仕留められなかったとき、苦しい思いをさせてしまったこととか、そういうことはほんとに獲物に対して申し訳ない。で、やっぱり自分の、その銃に対する腕の未熟さとかも考えるし。一頭一頭やっぱりその、傷跡から、思い浮かぶことはたくさんありますね。できればやっぱり一発でね、楽に逝かせてあげるのが、怖い思いもさせなく、うん、逝かせてあげたいなっていうのがありますけど。
― 自分の地元であるみなかみの山について。
やっぱり山自体、ほんとに大昔は知らないですけど、自分が知ってる山でも変化をしているっていうのはあるんですね。それはやっぱり山に入る人も少なくなっているので、山自体が荒れるというか。何もしない荒れ方。なんというか、山自体が可哀想に思える部分が多く。例えば松枯れであったりとか。この辺はまだそんなないですけど。木が急に枯れだしたりとか。杉の木が動物によって皮が剥かれて枯れたりとか。ま、その辺は自然の流れだから仕方ないなっていう部分はあるけれど、やっぱり山に住む人間がもっと山を大事にしてあげた方がいんじゃないのかなって。分けてもらうものがたくさんあるので。ただそういう文化がいまなくなっているから、山に入る人は極端に少ない。
あとはもう楽しみとして、山菜採りとか茸採りとかする方が遠くから来ますけど、そういう人たちには最低限のマナーを守って山に入ってもらいたい。好き放題やっていくんで、それもどうかなって。山菜採るにして、木を倒したりとか、ゴミもそのままにしていくし。それは山で遊ぶ人としてはいけないというか。いつか山の神様に怒られるんじゃないかって。それがね、怪我とか、怪我で済めばいいですけど、命を落とすこともあるかもしんないので、やっぱり山に入るからには山に敬意をもって入っていただきたいなと。そういう人たちが増えれば山ももっともっと活かされるというか。きれいな山であって、お宝を分けてくれる山であって。みんながもっと入りたい、山遊びしたいってなるかもしれないですよね。
― みなかみの町に長く住む理由っていうのは。
単純に一言でいえば好きだからですよね。やっぱり生まれ育った場所なんで大切にしたいっていうのもあるし。もちろん自分一人で守ることはできないけど、守っていかなきゃいけない部分もたくさんあるだろうし。伝統であったりとか、そういう山だからこその伝統もやっぱり継承していかなければいけないところもあると思うので、自分より下はどうできるかわからないですけど、自分はやれるだけのことはやって、うん、この土地で死にたいなとは思ってます。
今回話を伺った阿部達也さんは蛍雪の宿尚文の料理人でもある。
地元の食材をふんだんに使った山人料理が自慢のお宿。みなかみの旬の味覚を堪能しに、ぜひ一度訪れてみて欲しい。
達也さんの猟を追い、山への想いに迫ったショートドキュメンタリーもご覧ください。