山菜博士に聞いてみた、雪国の山菜がおいしい理由。
長い長い冬を越えて、このときを待ってましたとばかりに一斉に芽吹くいのち。その予感だけで、こころもからだもそわそわワクワク。そんな季節がやってきました。そう、山菜の季節です。
ふきのとうにこごみ、たらの芽、木の芽、わらびにぜんまい。とびっきりおいしい雪国の春です。この時期になると雪国の人は山菜はホントにおいしいなあ、などと舌鼓を打ちまくるわけですが、はて、雪国の山菜がおいしいのはなぜだろう?
どうせなら山菜にいちばん詳しい山菜博士に聞いてみよう!ということで、新潟県森林研究所で長年山菜の栽培を研究している松本則行さんに聞いてみた、山菜のこと、雪国との関係。
― そもそも山菜って何ですか?
山菜の定義には諸説あって、野菜との区別も曖昧です。十日町地域でいうと松之山、松代あたりにいくと山菜のことを野菜とよんでいるところもありますしね。私の考えでは、日本に自生する食用に適した植物は根菜も含めて山菜と呼ぶのがいいと思っています。
山菜はもともとは雪国の保存食でした。中でもぜんまいは貴重品で、昔はかなり危険な斜面に採りにいって、干しあげるまでも手間がかかったため、山菜の中では数少ない換金作物でもありました。
― 木の芽は三つ葉と五つ葉があるってホントですか?
本当です。当地で採れるのは三つ葉アケビです。三つ葉アケビの芽を食べる習慣があるのは、主に新潟県、中でも雪の多い地域だと言われています。
― 山菜はからだにいいってホントですか?
昔から「春の苦みを盛れ」といわれるように、山菜は冬の寒さで眠っているからだを目覚めさせるのに有効だと昔からいわれていますが、残念ながら明確な根拠はありません。
ただし、山菜にはポリフェノールが多く含まれ、活性酸素を除去するのには効果があります。身体が錆び付くのを防ぐという、いわゆる“アンチエイジング”です。
他には、ウワバミ草やモミジガサなどは、抗変異原性、つまりガンになるのを防ぐチカラが強いことが確認されています。
― 雪国の山菜はなぜおいしいんでしょう?
実際、雪国の山菜は他と比べてアクが少なくておいしいですね。雪が多いからアクが少ないと昔から言われていたんですが、でもこれも実は科学的な根拠はないのです。
アクの濃い薄いは何で決まるかというと、病気に強いとか、虫に強くなるためにそういうものを身につけているという可能性があるんですね。そうするとアクの濃い山菜というのは、虫とか病気とかいっぱいいる環境で生き延びてきたものだけが残った結果ともいえます。それに比べてアクの薄いものしかないようなところは、気候のせいであんまり虫がいない環境で育ったためにあんまりアクがなくても生きていられたんだろう。そんな予測はできますが、これもあくまでも仮説でしかありません。
もうひとついうと、雪のない地域では気温が上がれば一斉に芽が出てきてしまうので旬の期間が短いですが、それにくらべると雪が多い地域は、雪解けが徐々に進みます。沢すじでは雪が残りますし、南斜面は早く雪消えします。そういう風に雪を追っかけながら山菜採りをするということで、雪のない地域に比べれば非常に長期間山菜採りができると。
いい時期の山菜を食べたらどこのものもおいしいのですが、雪国はいい時期が長いから、おいしく食べる機会が多い、ともいえますね。
真白き世界に隠された知恵と出会う”雪旅”
雪国ガストロノミーツーリズム
いろいろな場所を食べ歩くのもいいけれど、ときには目の前の一皿に向き合うのもいい。旅先でおいしいものに出会ったら、食材やそれを育てた人に思いを馳せてみる。風土や文化とつながる食のストーリーが、旅をもっと豊かにすることでしょう。